とんかつQ&A「この世界の片隅に」

Q.
 

ロースおじさんは『この世界の片隅に』観ました? どうでした?



お名前:面科さん





A




フンッ…………………
フハァアア……………………………
ハアッ………………
………………………………
…………………………
………………………
フゥゥゥーーーーーー……………
ハァ…ハァ…ハァ…


あ、ゴメンゴメン。おじさん、『この世界の片隅に』のこと聞かれたら、肘とつま先で体を支える体勢を3分間維持する「プランクチャレンジ」でやり過ごすことにしとるんよ。というわけで、この脂ぎった吐息がおじさんの「答え」や。さよなら。


ってわけにもいかんよね、やっぱり。でもねえ……正直気が進まないんよ。『この世界の片隅に』についてなんか言おうとするとき、おじさんの眼前に重々しい扉がそびえるんよね。具体的にはキルアの実家の門ね。こじ開けるのにメチャメチャな筋力を消費するし、開ける奴のパワーによって開く扉のサイズがぜんぜん違う、みたいな。

いや、いい映画なんよ? ホントに。いわゆる辛気臭い「反戦映画」って雰囲気はぜんぜんないし、戦時下の日常をものすごく丁寧な考証と筆致で描いたコメディで、若い子でも肩肘張らずに楽しめるんやないかな。こうの史代先生の絵柄の再現もカンペキだし「のん」さんが演じる主人公のすずさんもめちゃんこ可愛くて芯が通ってて……アハァァァァーーーーーーッ! とぅんッ!!!

わかるッ!? 映画観た人なら理解(ワカ)るッ!? 今おじさんがエビ反りで「とぅんッ!!」ってなった感じ! いちばん小さい「1の扉」だけかろうじて開いて、その上に待ち構えてるでっかいでっかい扉がビクともしてないもどかしさ! 片渕須直監督はとんでもないブツを創りよったで!!

そもそもの話、「ネタバレなしのオススメ」がめちゃムズよね。おじさんが山崎賢人くんやったら映画鑑賞後のロビーで、一筋の涙を流した自撮りをアップするだけで「観に行こっ」って思わすこともできるかもしれんけど、あいにく中年の豚やからね。しこしこと文章で魅力を伝えるしかないわけや。でも、書けば書くほど作品の魅力が目減りしていくような罪悪感がおじさんを襲うんよ。困ったねえ。

ただ『この世界の片隅に』の場合、ネタバレの怖さより、未見の人に色眼鏡をかけさせてしまいそうな怖さがある。散歩してるときは目に入ってきたものが、どっかへの「移動」になると全く見えなくなることってあるやん? この映画、なんだか散歩に似たようなものを感じるんや。おじさんが『この世界の片隅に』についてヘタなこと言って、未見の人が「確認作業」みたいな感じで観るようになってしまったらマジのマジに最悪やない? それともこういうこと言ってるだけでハードル上げてる? 色眼鏡かけさせちゃってる?? 外してーー!! 急いで外してーー!! 裸眼推奨!! いますぐスレッジハンマーで頭のいろんな箇所を殴打しておじさんの記憶がちょうど消えるツボを探してーーー!!

で。まあ、ネタバレうんぬんは一般論や。どんな映画やマンガや小説にも言える。もう観た人に聞いてみたいんやけど、『この世界の片隅に』、映画鑑賞済み同士でも、感想を言い合うのにめっちゃ抵抗ない? 抵抗っていうか、勇気いらない? 劇場内が薄ら明るくなって「ああ、いい映画や、こら傑作やでぇ……」とジンワリしてから、あれこれ「良かったとこ」を具体的な言葉にしてみると「あれ? こんなもんやったっけ……」ってなるんよ。これがおじさんにとっての「1の扉」や。頭をひねりにひねって、ちっちゃい扉しか開けられない。あまりにも豊穣な世界を受け止める容積がおじさんの中にない、圧倒的な無力感ッ! 散りばめられた細かい欠片みたいなもんを、ざっくりした言葉でまとめあげることに冒涜感すら感じてしまう。

いい映画には大体、ワクワクさせるとか、泣かせるとか、笑わせるとか、観客を導く感情の指針が用意してあるよね。その流れに乗れれば「V8!」とか「ガルパンはいいぞ!」とか、感動のうねりを共有できるわけや。でも『この世界の片隅に』が導く先の感情には名前がついてないんよ。だからか、観たあと胸に残った「感じ」を持てあましてみんな途方に暮れてる気がするわ。あ、「だから他の映画より優れてる」とか言いたいわけやないで。良さがわかりやすい映画にも名作はぎょうさんあるし、ただこの映画の場合はそうだったってだけや。結局は自分で観て判断してほしいね。

……なんやかんやでペラペラ喋ってしまったわ。それにしても、「生活」って本当にかけがえのないもんや。おじさんも日々をもっと丁寧に過ごしたいわ。そんで、ゆくゆくは映画になりたいね。クラウドファンディングするから出資してくれへん? タイトルは『ブタがいた教室』。









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とんかつQ&A「白虎野の娘」

Q.
 

ロースおじさんこんにちは。私はバンドを組んでいるのですがいまいち人気がありません。売れるためにはどんな戦略で攻めればいいでしょうか?教えて〜!!



お名前:S菌さん





A




平沢進っちゅうミュージシャン知ってる? 元P-MODELってバンドやってた人。だいぶ前にTwitterで「私は(『けいおん!』の)平沢唯じゃない」ってツイートして話題になってた人ね。あの人の姿勢は参考になるかもしれん。おじさんはアニメ『ベルセルク』の劇中歌からハマったにわかファンやけど、平沢進ほど独自の道を突き進み、なおかつ高い人気も集め続けているアーティストは他にいないと思うわ。ちょっとこの場を借りて語らせてもらうね。なぜならここはロースおじさんの自由帳だから。
 
 

 
 
これが平沢進がP-MODELからソロに転身して2発目の曲、『世界タービン』や。スゴくない? もう26年前の曲だけど、今なお色褪せないナニコレ感にガツンとやられるよね。平沢進の世界観の特徴は、とにかく「わからない」ことなんよ。歌詞には難解な科学用語・SF用語・哲学用語・外国語や造語が散りばめられており、一聴して歌詞を一読したくらいでは何がなんだかさっぱりわからん。でもそこに圧倒的な歌唱力(CD音源とライブ音源の違いがわからないレベル)と演奏力が加わって、「何が何だかわからないけど、とにかくヤッべっぞ!」と感動してしまうんや。
 
大半のJ-POP歌手が実体験に基づいた具体的なできごとを唄ってリスナーの共感を呼んでいるとすれば、平沢進は「世界」「宇宙」「時間」みたいな大スケールから共感をブッ飛ばしてリスナーを包み込むんよ。おじさんが特に好きな曲は「環太平洋偽装網」「DUSToidよ、歩行は快適か」「ハルディン・ホテル」「聖馬蹄形惑星の大詐欺師」「夢の島思念公園」「華の影」とかかな。
 
 

 
 
数年に一度行われている「インタラクティブ・ライブ・ショウ」では、音楽と物語を融合させたパフォーマンスを演っとる。ストーリーは難解で正直よくわからんのやけど、観客に「ヒラサワ〜!」と全力コールさせてから颯爽と登場したり、合間にCGアニメ映像が流れたり、観客の声援でライブの結末が変わるマルチエンディング方式だったりと、頭を空っぽにして楽しめるヒーローショー的な側面もあって楽しいで。
 
 
で、なによりスゴイのは「そんな芸風なのに食えてる」ってコト。我を守った結果、生活を守れなかったミュージシャンがどれだけいることか……。平沢は利権を大手レコード会社やJASRACに管理されることに疑問を持っていて(PVの中でレコード会社にミサイルを撃ち込むシーンがあるほど)、いろいろ揉めた挙句に楽曲の版権を引き上げたんよ。おじさんはレストラン経営しとるからわかるけど、独立ってめっちゃ大変やからね。会社作って、権利関係の業務も全部管理しなきゃいかんわけやし。でも彼は90年代後半にはもう公式ホームページを開設しMP3音源を配信するなどして、ネット時代に先駆け自分だけの販路を開拓することに成功したんよ。
 
 
つまり、平沢進は常にマイナーを行く孤高の男であるとともに、商業音楽の市場へ「平沢進」という商材を輸出できる優れたビジネスマンでもあるんや。難解に見えてポップで、やたら偏屈なのにユーモラスで、観客を突き放すような厳しい態度の中に度外れのサービス精神が垣間見える。矛盾だらけで謎めいているからこそ、ファンは「これをわかりたい」と欲望して彼の虜になるんやろね。
 
 
長々語ったけど、質問者さんも自分がやりたいことを見据えたうえで地道に続けていけば、結果はあとからついてくるんやないかな? いますぐ売れる戦略を探すより「いかに替えの利かない存在になれるか」を考えて実行するしかないと思う。不法侵入と同じで、急かず手抜かず、や!
 
 
 
ハーイヤー!
行け豚よ 柵さえも超え
秘密裏に小児の学び舎へ
奇跡の衣類に 饒舌なサイレンが鳴る
イーーンヤーーー! (※)
 
(※こんな歌はありません)






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