とんかつQ&A「今だから抑えておきたいジャパニーズHIPHOPの歴史【入門編】」

Q.


某陸上選手の方が「どんなに頑張っても、日本で生まれ育った人がヒップホップをやるとどこか違和感がある」という発言をして炎上していましたが、僕も割と同じことを思っていたので怖くなりました。おじさんはヒップホップにも詳しそうなので、「東京生まれヒップホップ育ち」から日本語ラップの知識が止まっている僕が今後どう振る舞っていけばいいのかレクチャーしてくれませんか? 炎上は怖いので……。



お名前:下丸子四丁目さん

A


あの発言にはおじさんも「うわぁやっちゃったなぁ」と思ったけど、まぁ誰しも先入観だけでとらえてる分野ってあるよね。「クラシックやってる人は家が金持ち」とか、「僧侶は楽して儲けてそう」とか、油断したらつい口走ってしまいそうな印象論を軽い気持ちで書いちゃったって感じやないかな。まぁこの件に関しては書いてしまった方も筆がすべったことを認めているみたいやから、今後は反省の意味も含めて少しでも日本語ラップの作品に触れてみて欲しいね。おじさんはその業界の人でも何でもないし、レクチャーって言うと大げさになっちゃうんやけど、とりあえず知ってる範囲で日本のHIPHOPについておさらいしてみるね。


そもそもHIPHOPの始まりとは何やったか?


HIPHOPは、1970年代に黒人達のブロックパーティーの中で発展してきた文化で、「尻がいつでも跳ねるような」という楽しい黒人文化の総称としてアフリカ・バンバータっちゅう人により提唱されたのが起源なんよ。つまりHIPHOPとは当時の黒人パーティー文化の総称であり、いわゆる「ラップ」はその一要素に過ぎないわけ。DJ、グラフィティ、ダンスと並んで、ラップは「HIPHOPの4大要素」とされてるんやけど、これを前提として、ここではあくまで「ラップ」を中心としたHIPHOP音楽について、日本での発展と現在について記していくね。


アメリカで盛り上がるHIPHOP音楽の熱量に触れ、日本でHIPHOPをしようと動いた最初期のアーティストには、MAZZ&PMX、BUDDHA BRAND、Krush Posseなどが挙げられるんよ。彼らは1980年代後半から日本での活動を始め、本場アメリカでも主流である、いわゆる「ハードコアなHIPHOP」を目指す彼らは、まずそのスタイルを模倣するところから始めたんよね。


MAZZ&PMXは完全に英詩でラップすることでラップのリズムが黒人だけのものでないことを証明したし、BUDDHA BRANDは英詩を織り交ぜつつ日本語でラップする面白さ、その言葉の破壊力をパンチライン(=聴いた時にインパクトのあるリリック)で見せつけた。
Krush Posseは日本語でのラップ、日本的な不良感を徹底し、後の日本のハードコアHIPHOPの最も基本的な下地となったんよ。




BUDDHA BRAND - DON'T TEST DA MASTER






一方で、「ラップ」という手法を用いながらも、初めから日本独自の土俵でオリジナリティを追求する動きもあったんや。スチャダラパーかせきさいだぁらが所属するLittle Bird Nation (=LB)勢が代表的で、彼らはマッチョスタイルなHIPHOPからは少し距離を置き、夏休みを振り返ったり暇潰しの方法をのんびり考えたりなど、あくまで日本的なテーマの中でラップを表現したんよね。 この一派はその後も独自の路線を歩み続け、スチャダラパーは小沢健二との『今夜はブギーバック』で、かせきさいだぁは中期以降の作品から現在に至るまで、シティポップの感性と上手く結び付くことになるってわけ。EAST END×YURIとか、ゆるくてわかりやすいHIPHOPは、一般層にも広く受け入れられたよね。




スチャダラパー&小沢健二 - 今夜はブギー・バック






かせきさいだぁ - さいだぁぶるーす







その一方で、「本流的な」HIPHOPを求道するアーティストは、1990年代以降も着実に増えていったんよ。ZEEBRAK DUB SHINEDJ OASISによるキングギドラは、後に世間にハードコアHIPHOPの一様式を示すひとつのアイコンとなったし、Krush Posseからメンバー再編を経て生まれたMicrophone PagerMUROTWIGYは、個々の活動で常に日本のHIPHOPを模索し続けた。そして、TWIGYがYOU THE ROCKらと組んだ雷家族などのグループも併せ、この周辺のアーティストを中心として1996年に開かれた伝説のイベント「さんピンCAMP」の成功をもって、日本のHIPHOPはこの国の音楽業界における確かな一勢力となったんよね。




LAMP EYE - 証言 (さんぴんCAMP) (LIVE)


 
 
 
他にも、この時代の礎を築いたRHYMESTERSHAKKAZOMBIESOULSCREAMなどは、日本のHIPHOPを語る上で欠かせないクラシック作品(時代を問わず評価される音楽)を数多く発表したんよ。

『RHYMESTER / リスペクト』
『SHAKKAZOMBIE / JOURNEY OF FORESIGHT』
『SOULSCREAM / The positive gravity 〜案とヒント〜』

あたりはこの時代の空気を今に伝える超名盤やから、ぜひ機会を作って聴いてみてね。
 
 
 
今日のお悩み相談は読者さんを置いてきぼりにするスピードが極端に速い気がするけど、まぁちょっとした教養として抑えといても損はない話やと思うから、今日はこのまま行かせてもらうで!



そして、日本語で違和感のないカッコ良いラップを確かに示してみせたんが、1999年に発売されたNITRO MICROPHONE UNDERGROUND(=NMU)の、その名も『NITRO MICROPHONE UNDERGROUND』や。このアルバムは得体の知れない8人のMCが、次々と入れ代わり立ち代わり現れては高い技術のラップを聴かせ、「日本語でHIPHOPすること」それ自体のカッコ良さを完璧に示してみせた不世出のマスターピースやった。本作は間違いなく日本のHIPHOP史においてエポックメイキングとなった作品であり、わかりやすい「ラップのカッコ良さ」がパンパンに詰まっとるから、これからHIPHOPを聴こうとしてる人は何はなくともこれだけは聴いといてな。




NITRO MICROPHONE UNDERGROUND - NITRO MICROPHONE UNDERGROUND






NMUがひとつの境地を切り開いたことと平行して、日本語でラップすることのみならず、その歌詞にも独自の色を持たせるアーティストが次々と登場したんや。そして2003年前後、その流れは最盛に達したと言える。例えば妄走族MSCは、アメリカのギャング的なHIPHOP(=ギャングスタラップと呼ばれる)とは異なる、日本的な不良感や、裏稼業者の現実を丁寧にその歌詞に残したんよ。


例えばMSCの2003年の代表作『MATADOR』では、新宿に生きる彼らのハスリング風景や、イラン人勢力とのしのぎ合いなどが彼らの実際の経験談として生々しくラップされとる。未来への暗い絶望感と、ストリートのスリリングな世界観が感じられる作品や。




MATADOR - MSC






また、北海道で活動するTHA BLUE HERB は、1998年にその1stアルバムで北海道のクラブ風景を描くと共に、「東京のHIPHOPしか見ていないアーティストやメディア」への怒りを丸ごと詰め込んで名を挙げたんよ。その後、2002年に発売された2ndアルバム「Sell Our Soul」は、前作に増して密度の高い歌詞が詰め込まれた圧巻の作品やった。どん詰まりのフィルム・ノワールのような世界観でネパールの麻薬売人の一生を描いた"路上"は、メッセージ性の高い啓蒙的なHIPHOPの可能性を、壮大なスケールで表現することに成功しとる。




路上 - THA BLUE HERB






こうして、2000年代前半までに、日本のHIPHOPは日本語で違和感なくラップをするのみならず、「日本に生きるオレたち」の前に確かにある現実や、そこで生まれる感情を吐露する音楽へと進化を遂げたんよ。そんな日本のHIPHOPが更に発展することになったのが、SEEDAに代表される「内省的なラップ」の台頭や。


2004年、プロデューサー・I-DeAの『Self Expression』への参加で一躍名を上げたSEEDAは、その後のソロアルバム『GREEN』でアメリカのHIPHOPも咀嚼しつつ、自分の置かれた環境や、そこから抱える悩みなどをエモーショナルに表現したんよ。彼の所属するSCARSや、Swanky Swipesなどの周辺アーティストを中心に、このスタイルはまたたく間に日本のHIPHOPにおける新たなトレンドとなったんや。


このエモーショナルなスタイルに特徴的なのは、「自分」を語る際に通常のHIPHOP的なセルフボースティングとは異なり、「オレは金を持ってるぜ」、「オレはラップでのし上がってやるぜ」といった成功主義的な主張が希薄な点やった。このトレンドのラップでは、より「ラッパー個人の現在」に焦点が当たっており、「働く場所がない」、「ラップで食いたいけど稼げない」などといった「弱い自分」をあからさまにさらけ出す部分に新鮮味があったんよね。



花と雨 - SEEDA






こうしたSEEDAの登場を受けて、2006年前後のHIPHOPは、オーソドックスなメインストリームHIPHOP、日本的な不良HIPHOP、啓蒙手段としての文学的HIPHOP、前述のエモーショナルHIPHOPが、お互いに混じり合い発展していく場となったんよ。


そして2010年頃、日本のHIPHOPにまた新たな流れが生まれたんや。「SWAGラップ」と呼ばれるそれは、正確な定義が難しいスタイルなんやけど、大雑把には「一般的な価値観とは無関係に、自分が語りたい、イケてると思うものをイケてるラップに出来た奴が一番カッコ良い」って感じやろか? どんどん日本的、かつ個人的になっていく日本のHIPHOPにとって、このスタイルは非常に相性が良かったんよ。


例えばMICADELICダースレイダーは、カレーに対する自身の愛を曲にしとったし、いち早くこの流れをキャッチしたGirlz'n'BoyzCherry BrownMINTは、無地Tシャツの素晴らしさを説く曲や、アニメの素晴らしさを語る曲を数多く発表したんよね。


また、この頃から音楽を取り巻く環境が劇的に変化したのはみなさんご存知の通りや。アメリカや日本、有名無名を問わず、HIPHOP業界全体で、作品をネット上で無料公開するアーティストが2010年頃から爆発的に増えたんよ。世界のHIPHOPにアクセスする手段が増えたこともあり、SWAGラップの概念は日米でほとんど時間差なくホットなトレンドとなり、さらに作品発表の手軽さから「いち個人が個人的な趣味嗜好を、作品にしたためて発表する」というトレンドはさらに加速していったんよ。


こうした熱気を決定付けたのが、AKLOKLOOZの登場や。共に無料ダウンロード畑の出身で、ユニークなテーマと語り口、何よりそのラップの上手さで人気を博しとるアーティストなんやけど、KLOOZは2010年にネット上で公開したアルバムで、「自分のラップはまるでホニャララ」という歌詞をいかにユニークに表現できるかを競う"Like A Game"AKLOと発表し、SWAGラップの楽しさとユニークさをリスナーにわかりやすい形で届けたんや。



LIKE A GAME - AKLO,KLOOZ






この2人のように、2010年代のHIPHOPにおいては次世代を担うアーティストが「ネットの無料ダウンロード作品」から名を挙げることが定着化してきたんよね。世界中のHIPHOP作品が、誰もが触れられる環境でネット上にひしめき合い、それらが互いに作用してまた新たな価値観を作り出す。リスナー側にいるばかりでなく、いつでも自分が演者側になって作品を発表することができる。そんな「個の時代」の到来を可能にしたインターネット技術の発展は、社会はもちろんHIPHOPにとっても革命的な出来事やった。


HIPHOPとは一部で揶揄されているような「マジ感謝ラップ」だけじゃない。恋人についてだって、好きな料理についてだって、好きなアニメやアイドルについてだって自由に語って、自由にラップしていい。何なら「どういうフロウ(=ラップの歌い方)が好きか」を曲にのせて表現したって良い。2013年頃から頭角を表してきたKOHHや、KOWICHIといったラッパーは、最先端のフロウを日本語的に、あえてやや過剰に直訳することで、日本独自のケレン味を手に入れているようにおじさんには思える。




Fuck Swag - KOHH






こうした流れの中で、急速に個人化していった日本のHIPHOPは、ネットの力を得て今や究極的に「自分個人がどういう人間か」を表現する音楽として成熟の時を迎えたんよ。


今回こうして語った本流のHIPHOPの他にも、今回は触れなかった、totoSamurai Troops小林大吾といったよりポエティックなHIPHOP、90年代の頃のHIPHOPを是としてその質感をひたすら追い続けるDinary Delta Forceや、Blahmyのような土臭いサウンドのHIPHOP、神門小林勝行のように、エモーショナルなラップを突き詰めたHIPHOP……あ、あとは韻シストThe NovelostilloのようなバンドHIPHOPもあるね。


こうした多様なスタイルが混じり合い、日本のHIPHOPはどんどん多層的になり新しい面白さを見つけ出して発展していくとおじさんは思っとる。


NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDの登場後、ほぼ3年という短いサイクルで新たなトレンドが開拓され続ける激動の時代を迎えているのが現在の日本語ラップなんよ。15年前の「悪そうな奴らは大体友達」でイメージが止まっている人は、ぜひその驚くべき多様性と進化に目を向けてみてね! 今日は長くなり過ぎたのでおじさんはもうマキバオー読んで寝ます。


 
 

手漕ぎボート - 小林大吾
 

 
 
 

DLIPPN' DA STAGE&PAGE - BLAHRMY


 
 
 

取扱説明書 - 神門






RGTO - AKLO feat.SALU, 鋼田テフロン & Kダブシャイン

 








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