とんかつQ&A「ロースおじさんの初夢」

Q.
 

あけましておめでとうございます。ロースおじさんの初夢は何でしたか?



お名前:jerkeyさん





A




思わず鼻がひん曲がりそうな、鼻孔まで焼けつく腐臭。気がつくと、おじさんは暗闇の中にいた。とてつもない悪臭、闇、耳の周りでブンブンと絶え間なく鳴る羽音のような……蝿? 一体どこなんや、ここは。
 
 
ブゥーン、ブゥーン、ブゥーン。
 
 
ああ、羽音がうるさい。周りの音がまったく聞こえん。でも時折遠くの方で、船の汽笛のような音が聞こえる気がする。
 
 
ブゥーン、ブンブンブン、ポーッ、ブゥーンブゥーン。
 
 
ここは港の近くなんか? とにかくこの場所から移動せな。顔の周りの羽音を手で振り払い、おじさんは足を動かそうとする。でも腰から下の下半身が異様に重たいんよ。何かがまとわりついてうまく歩けない。まるで固まりかけたセメントの中を移動しているような……足を持ち上げようとするたびに、ねっとりとした強い抵抗がヒザにかかる。一体これは……地面を探ろうと手を下ろしかけたおじさんの指に何かが触れる。ビチャッ
 
 
泥、や。
 
 
おじさんの腰から下は、完全に泥に埋まっとる。それは油分が強く、ねっとりと指に絡みつく。しかも指先で泥をほぐすと、獣と排泄物、腐った生ごみのような悪臭が強くなる。匂いの原因もこの泥や。おじさんは暗闇の中、腰まで汚泥に飲み込まれ、ただ立ち尽くしている。
 
 
ブゥーン、ブンブンブンブン、ブゥーンブゥーンブゥーン、ポーッ ブゥーン。
 
 
羽音がうるさい、たまらん煩わしさや。目眩とともに、嘔吐感がせり上がる。ウプッ。その瞬間、見渡す限りの闇だった世界が突然真っ白になった。気でも失ったんかと思ったんやけど、よく見ると強烈な光が真正面からおじさんを照らしている。なんや? ライト? 誰かおるんか? 眩しすぎて薄目しか開けられんけど、よく目を凝らすと光源の側に誰か立っとるような気がする。誰なんや? ここはどこなんや?
 
 
 
「ひろえ」
 
 
 
声がする。子供の……男の子なのか女の子なのかわからんような声。ちょうど小学4年生ぐらいの年の子の声や。その声がおじさんに命じてくる。
 
 
 
「ひろえ」
 
 
「ひろえ」
 
 
「ひろえ」
 
 
 
「ひろえ」は、「拾え」なんか? よく見ると、ライトに照らされたおじさんの正面の汚泥の上に、洗面器かバケツのような四角い空の容器が浮かんどる。ここの中に? 一体何を拾えばええんや? おじさんはわけもわからず、目の前のヌメヌメした重たい泥を手ですくい、容器の中に移していく。すくっては移す。すくっては移す。すくっては移す。すくっては移す。小さい容器に見えたけど、思ったより底が深いんか、泥を入れても入れても満杯にはならへん。すくっては移す。すくっては移す。
 
 
 
ブゥーン、ブゥーン、ブゥーン。
 
 
すくっては移す。すくっては移す。すくっては移す。
 
 
ブゥーン、ブンブンブンブン、ポーッ。
 
 
「ひろえ」
 
 
すくっては移す。
 
 
ブゥーン。
 
 
すくっては移す。
 
 
ブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブン
 
 
すくっては移す。
 
 
ポーッ
 
 
「ひろえ」
 
 
ブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブン
 
 
すくっては
 
 
 
 
 
 
そこでおじさんは目が覚めた。それがおじさんの今年の初夢や。気色の悪い夢やったけど、目が覚めた今もおじさん時々思うんよ。ひょっとしたらあの夢で見た腰まで泥に浸かったおじさんが“現実”で、こっちの世界のおじさんが“夢”じゃないかって。バカバカしいけど、どうしても考えてしまうんよ。腐った泥をひたすら集め続けるおじさんの方が本物だとしたら、一体おじさんは向こうの世界でどんな罪を犯したんやろう、ってね。
 
 
 
あけましておめでとう。今年もよろしくね。